「適時開示アワード2023」のノミネート適時開示情報は以下の作品となります。
会社のカネで「強制混浴」 社長排除に役員らが隠密行動
LPガス、都市ガスを始めとするエネルギー事業のほか、情報通信サービス、CATV、アクア、住まい、総合リフォーム、ブライダル・介護などの事業を展開する当グループは、2011年にホールディングス化。
それ以降、当ホールディングスのEBITDAおよび1株あたり純資産の額は設立時の2倍近くとなるなど、業績は順調に推移している。
しかし2022年9月15日、当ホールディングスの前代表取締役社長による不適切な経費の使用が発覚したとして、取締役会は前社長を電撃解任。
本紙はその際に設置された特別調査委員会による調査報告書である。
調査にあたってはグループ内外への聞き取りや、おなじみのデジタル・フォレンジックに加え、守秘義務を考慮して黙りそうな不正経費の支出先に対しては弁護士法第23条の第2項に基づく弁護士照会も活用された。
調査結果によれば前社長は絶対的な権限により、自身に全役員賞与額の約45%に相当する額の賞与を支給し、また、習近平よろしく自身の定年を事実上撤廃。
さらには会社が保有する保養施設に出張コンパニオンを呼んで混浴を強制し、また、業務と関連性のない虚偽の申請に基づく宿泊や会食などを繰り返していたことなどが調査で判明していった。
結果、特別調査委員会は2016年4月からの約6年間で、当社グループとの業務関連性が確認できなかった、または、業務関連性に疑義が残る交際費、旅費交通費及びその他の経費の経費の不正使用が約1,020万円に上ったと報告。
秘書含む社長室および管理部、グループ監査室や内部通報制度、役員による牽制機能も不十分であったとした。
不正の規模は業績の成長度合いからすればさほど多くないながらも、報告書では絶対君主である前社長を解任するにあたり、役員らが隠密に連携していくさまも描かれ、読み応えは十分。
途中から調査委員会も調査ハイになったのか、混浴強制問題に至っては以下の情報を添付した点もノミネートを後押しした。
交際も黒けりゃ調査報告書も真っ黒
当社は東京都公安委員会から、2021年当時のオーナー社⾧が個人的に交流していた指定暴力団住吉会系E会のY会長に対して額面約189万円の小切手を交付するなど、公安委の規制対象者に利益を供与したとして、東京都暴力団排除条例による勧告を受けた。
本紙は、それに伴って設置された第三者委員会による調査報告書となる。
第三者委員会の認定によると、当時の社長は2000年にY会長の自宅建設に当社の元従業員を関与させた。元従業員はその自宅建設後もY会長の自宅に有刺鉄線を巻く業務を行ったり、業者を手配して自宅等のメンテナンスにも対応するなどしていた。
元従業員はこれらY氏の要望およびその対応状況を元社長に都度報告していたという。
その後、当社は2006年に名証セントレックスに上場したものの、Y会長と当社との関係は続き、上場以後このY会長案件は元社長からの「特命案件」となる。
当時この特命案件を引き継いだ別の元従業員は当該メンテナンス工事を外注していたが、この外注先の中には、受注した工事がまさかの暴力団員の自宅であると知らずに受注してしまった業者もあり、さすがにこの業者がY会長からの支払いを拒んで、当社に直接工事代金を請求する事案もあったという。
このように、Y会長との関係について当社元社長も違法性を認識していなかったはずはないが、20年以上も関係が続いていた2020年頃に行われた解体工事において、当社が一般的な決済手段である口座振込でなく、小切手をE会の理事長に交付する方法にて決済を行ったのが明るみに出て万事休す。冒頭の東京都公安委員会勧告となった。
上場企業が令和にまで暴力団案件に関わっていたという驚愕の事例だったが、さすがに昭和ではないので金融機関からしても本件は一発アウト。当社は資金繰りに窮したためオープンハウス傘下で再建を図ることとなり上場廃止が決まったとされるが、株をオープンハウスに売却した元社長はこうした見方に反論している。
間に合わないから素人だけで訂正報告書出してみた
関連会社への荒ワザ架空売上計上などによる粉飾決算を発端とし、2022年8月の期限までに四半期報告書を提出できず、上場廃止の危機に直面していたディー・ディー・エス。
調査委員会報告によると、当社はこの関連会社に対する架空の売掛金を原資として当該関連会社を子会社化するという、「いやそれ、たとえ売上が存在してたとしても連結で消去されますやん」感満載の意味不明会計処理を無理やり通すなど、「ぼくがかんがえたさいきょうの会計処理」を振りかざし続けてきたが、ついに限界が訪れた。
元代表取締役会長の主導による不適切な会計処理について、タイムリミット間近で訂正報告書の提出を済ませて無事上場廃止を回避した…かと思いきや、提出された報告書は「脆弱な経理体制の下、何が正しい連結財務諸表等かもわからない状況下で提出」された、まさかの「未完成品」。
完成に間に合わず多数の誤りを含む途中稿の訂正報告書を、訂正監査も受けずに代表取締役社長の独断で提出するという強行手段に打って出てみたものの、本件開示では東証赤ペン先生にその訂正理由を大幅に筆入れされる始末。
最終的には当社が「内部管理体制等に関する問題の所在に関する理解を著しく欠く結果、改善を要する個別・具体的項目等について、審査過程で指摘を受けてはじめて改善の必要性を認識する状況が継続しており、改善計画の実行遅延、不履行等を十分に補うと評価するに足る対応が講じられていない」と、内部管理体制が改善する見込みがなくなったとして東証激おこで上場廃止が決定した。
特設注意市場銘柄に指定されていた銘柄で、指定から1年未満で「内部管理体制確認書提出前に内部管理体制等について改善の見込みがなくなったと取引所が認める場合」に該当して上場廃止となった激レアさん退場と相成った。
監査役報酬は誰のものか?
当社は、2023年7月7日に臨時株主総会を開催し、監査役1名の解任を決議した。
この解任された監査役は、2023年3月の定時株主総会で選任されたばかりの人物であったが、監査役としての職務の範囲を超えた発言や強圧的な振る舞い、監査役としての職務を逸脱する行為などが確認されたため解任決議に至ったとされる。
この前監査役は当社で長年にわたり管理畑を昇り続けて内部監査室長を10年間勤め上げた人物。
70歳の定年を迎えたのであろうか、今年、常勤監査役のその後の花道を用意されたかのようなポストであった。
それがわずか数ヶ月で、しかも臨時株主総会を開いて「解任決議」という異常な事態に。
当社の主張によれば、前監査役は、監査役会で自身の報酬額を前監査役時代の1.6倍に増額する一方、社外監査役の報酬を微増させるという提案を行ったという。
社外監査役2名は、報酬増額は不要との意見を述べていたが、結局はこの増額内容について前監査役自身が代表取締役にも説明して理解を得るよう努めることを条件として賛成し、社外監査役の報酬額は増額不要との内容で合意した。
しかし、前監査役はその後、代表取締役との協議を行うことなく、監査役3名での決定事項として監査役報酬配分協議書を一方的に作成して当社に提出していたとして、当社および社外監査役は前監査役の行動を問題視。
この他にも、複数の従業員が同氏から、過去に暴言や強圧的な言動を受けたとの申告があったとしている。
とはいえ当社はこの解任に際して、前監査役が監査役報酬額について代表取締役から承諾を得ていないことを問題としたのではないと説明。会社法第387条2項により、各監査役の報酬額はあらかじめ定められた上限額の範囲内で、監査役の協議により定めるものであるからだ。
この点について当社は、社外監査役2名から同意の条件を明示されたもののこれを履行せず、共に監査役として重要な役目を担う社外監査役の報酬は微増の提案しかせずに自らの報酬額のみ極端に増額する前監査役の行動が、自己の利益を図るためのいわば「お手盛り」 だとして批判。臨時株主総会で前監査役に対する信任を諮った。
非常に珍しい臨総事案となったが、当社側の主張は株主に受け入れられ、コッソリ報酬増額を目論んだ前監査役はその役職を失うこととなった。
代々続いた「愛人貢ぎ」業
2023年7月9日、当社が運営する内部通報制度における外部窓口宛てに、タムロンの前代表取締役社長が、大宮の中国系クラブ・ラウンジに勤務していたホステスS氏を海外出張に同伴させ、経費を私的に流用した旨の内部通報があったことを契機として設置された特別調査委員会による報告書。
調査委員会の認定によると、経費の不正使用は前々代表から続くものであったという。
調査委員会の調査に際して、前代表は代理人弁護士を起用して対応を一任。調査委員会によれば、本人が所有する携帯端末による私的なメールなどの証拠は一切提出されず、直接のヒアリングにおいても、精神的疲弊等を理由にして代理人弁護士による適法かつ適切な範囲での「重厚練達な」防御活動に阻まれたという。
調査委員会の社内ヒアリングによると、前代表とS氏は直視が憚られるほどの過剰なスキンシップを行う間柄で、調査委員会が前代表にS氏の子供との親子関係を否定する根拠を質問したところ「顔が似ていない」からと回答するなど、前代表がS氏との肉体関係そのものを否定しない様子から、当人はS氏と恋人関係あるいは愛人関係にあったと認定している。
前代表はコロナ期間を除いて毎年のように、業務に一切関係のないS氏と同伴で海外出張に出ており、ときにはS氏の家族やその友人家族を引き連れるなど、こうしたプライベートフレンズにかかる費用を当社に負担させていた。
この他にも、S氏が関係する飲食店でのモエ・シャンやフルーツ、20人前の出前料理といった飲食費や、S氏が個人的に使うSuicaチャージ代金、タクチケ横流しなど、S氏のための不正流用は、たとえコロナ期間であっても枚挙にいとまがなかった。
そして、調査委員会のメスは 前々代表にも及ぶ。調査の結果、社内飲食と称して、前々代表が単独で飲食した費用1.2億円超を当社に負担させていたことが判明。
この前々代表は2016年3月から取締役でない相談役に就任していたが、この相談役時代においても50百万円以上の飲食費を当社に払わせた理由について、「会社の経営に口出しをすることを我慢することより生ずるストレスを発散する必要があった」としており、どうやら、会社経費の不正使用は当社歴代トップの伝統芸であったようだ。
最終的に調査委員会は、監査も入らないほど聖域と化した当社秘書室に対する交際費チェック体制の不備を指摘。2人の元社長による1.6億円を超える私的流用を認定し、調査を受けて当社も2人に対し不正使用額の損害賠償請求を行った。
過年度損失訂正 「準大手」へのやり場のない怒り
当社は、前期に計上した資産除去債務に係る繰延税金資産948百万円が、「解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異」として回収不能として取り扱うべきであり、資産計上すべきではなかったとして前期の純損失を同額だけ増加させる訂正が必要であるとして本件開示を行った。
前期の純損失をほぼ倍増させる訂正が必要となった当社だが、当開示には当社の監査法人に対する恨みが強く表現されている。
当社によると、2023年4月より行われた前期の監査手続きにおいて、当社は「税効果スケジューリング表」等の具体的な資料を仰星監査法人に提示の上、会計処理について当社の算出根拠を説明しており、仰星側もこれを異議なく了承していたという。
こうしたコミュニケーションにより、前期財務諸表監査および内部統制監査において仰星監査法人による無限定適正意見を得て、当社は2023年6月22日に有価証券報告書を提出していた。
しかしこの後、当社開示によれば2023年9月11日から行われた仰星監査法人内部のモニタリングにおいて当社の前期決算が対象となり、前期に計上した繰延税金資産のうち、資産除去債務に相当する金額について仰星側が当時の監査内容を再検討した結果、冒頭の繰延税金資産の計上を認めたことに係る過失が判明したとして、過年度に遡った取り崩しを「一方的に要請」してきたのだという。
今回の訂正は、いなげや が監査法人をそれまで50年の付き合いとなっていた会計事務所から2021年に仰星に変更して間もないタイミング。さらには、イオンがいなげやに対してちょうどTOBを実施しており、本件はそのデュー・デリジェンスにも相応の影響を与えている。
仰星監査法人側からすると、初動は重大なミスではあったものの、本件は法人内部のモニタリングが機能した証でもあり、いなげや の怒りで計上を認めるわけにもいかず、平謝りするしかなかったのだろう。
日経新聞によれば、別の大手監査法人パートナーは「担当者の知識不足か上司のレビュー不足だろう。これだけ大きな金額なら通常は会社も監査人も気をつけて確認するはずだ」とコメントしており、シェアを増やしてきている「準大手」監査法人に対して同紙も厳しい視線を向けている。
しゃしゃり出た「序列9位」 多方面を巻き込んでダウンバースト
当社は2023年4月3日、当時の代表取締役副社長執行役員が「一身上の都合」により辞任するという適時開示をリリースした。
副社長の「辞任」以外の情報が一切無いという不親切極まりないリリースだったが、2023年3月30日の朝日新聞報道『国交省元次官、人事介入か 空港施設会社に「OBを社長に」』に端を発したものであるのは明らかだった。
これは国土交通省の元事務次官が当社の役員選任に介入しているという、東証プライムに上場している会社とはおおよそ考えられないガバガバナンス報道であったが、朝日新聞の報道によれば2021年5月31日、当時の空港施設の社長退任に伴い、役員人事を話し合う会議が役員8人で持たれていたところ、複数の関係者によればこの辞任した人物は、自身が副社長となるべきであること、また、それが国土交通省側の意向であることをにおわせて主張していたという。
ここで国土交通省が絡んでくるのは、当社が事務所用ビル、格納庫、工場用建物の敷地等として利用している土地が国土交通省所管の行政財産であるためで、当社は当該土地の使用許可を国土交通省航空局より毎年受けている。
かかる報道を受け、当社は2023年4月10日に本件について「独立検証委員会」を設置し、迫り来る株主総会に急ピッチで間に合うよう調査を行わせた。
前述の報道にあった「社長退任に伴い、役員人事を話し合う会議」とは、2021年当時の当社社長の言動が、弁護士の調査によりパワーハラスメント等に該当するものと評価されたことを受け、当時の社長が辞任する意向を表明したことを受けたもの。
検証委員会によれば2021年当時の当社内での序列が9位であったことがうかがえるという今回辞任した人物は、当時の社長退任後の人事に関する一連の会議において、自身が副社長となり、かつ、国交省出身の当時の相談役が取締役に復帰する案を提示していた。これに多くの者が反対し議論が紛糾していた。なお、次期社長および会長の選任案についてはあまり異論は出なかったという。
しかし、序列9位のこの人物は自身が副社長となることが「航空局側から見れば、協力の証しだと思う」と語っていたとされ、「国交省出身者が代表取締役に不在の時期を1年でも作ってはならない」「エアライン 2社の羽田の発着枠の問題や、空港周辺土地のかさ上げ問題について、航空局との関係が悪化するおそれがある」などとして自身を副社長とするよう役員らを説得。役員からは、この言動が本当ならば国土交通省航空局による当社の役員人事権への介入に当たると指摘もなされたが、羽田の発着枠というエアライン2社にとって急所となる問題まで持ち出したところに恐怖を感じた役員もおり、最終的には非・国交省系である当社プロパーのトップも同時に副社長とする案が参加者から示され、議論は収束に向かっていったという。
「序列9位」が副社長となった後もこの男の暗躍は止まらず、2022年11月に彼は東京メトロ株式会社を訪問。その後2022年12月に何故か東京地下鉄の代表取締役会長と当社本社で面会することとなった当社社長および会長は、東京地下鉄の会長から「会長、社長を 6月で退いてほしい。Y氏(副社長)を社長にお願いしたい」と申し入れられたという。
社長および会長は当然にこの申し出に対し固辞し、何事もないように面会は終わったものの、この東京地下鉄の会長も元国交次官であり、本件が明るみに出たことでこちらもその役職を退任している。
また、検証委員会のデジタル・フォレンジック調査においては、序列9位の副社長が国交省職員から、国交省の職員の入省年次や人事異動表などを随時入手していたことが判明し、国家公務員法第 106条の4(再就職者による依頼等の規制)に違反する行為を重ねてきたことが確認されている。官庁OBによる「終わらない昭和」は依然として存在し、当社はその泥沼から令和にあっても抜け出すことが出来なかったと言えよう。
事の重大性として報告書では、当社の取締役候補者および役付取締役候補者の選定が、取締役会の諮問委員会として設置されている指名委員会における重要案件であるところ、指名委員会が機能として形骸化しており、また当社の主要なステークホルダーに役員ポストを用意すべきという古い役員体制論が取締役会・指名委員会に未だに残っていることなど、当社がプライム市場の企業として果たすべき社会的責任を履行できていないと指摘した。
夢を実現した創業者2人 喧嘩別れの代償は株主にも
当社は2023年9月8日、代表取締役副社長 グループ COOの突然の辞任を発表した。
この前COO は当社代表と共同で当社を創業しており、当社では主に投資・M&Aの領域を担当していたという。当社が発表していたリリースによると、2023年1月からの新たなグループ経営執行体制では前COO には当社「取締役会長」の肩書が与えられていた。
突然の辞任となったきっかけは、発表わずか2日前の9月6日夜の出来事だったという。
当社によれば前COO は社内の懇親会の場において、従業員へのセクシャルハラスメントを行い、さらには志を同じくしていたはずの前述の代表へ暴力をふるっていた。
その「荒れた社内懇親会」には不参加だった常務執行役員らは、懇親会同席者からの連絡で事態を把握。駆けつけて可能な限りの一次対応を行ったという。
翌日7日には関係者へヒアリングを実施し、当社によれば同日夜には前COO を除く経営陣の総意として同氏に辞任を要求。前COO はこれに応じて辞任を申し出た。
きっかけとなった出来事からわずか2日後の唐突な辞任劇であったが、当社は外部の専門家の助力も得て事実調査と再発防止およびガバナンス強化に向けた対策の検討を進めているという。
当社は本件による業績への影響について、当社は既存事業への大きな影響は無いと考えているとしたが、その一方で今回の事案を受け、当社経営陣は前COO と一切の関係を断ち切るため、同氏に保有する当社株式を処分するよう働きかけを行っているという。
共同創業者であった前COO が所有していた当社株式は代表と同じく全体の29%。業績も芳しくなく、しかも散々な出来事のあとに、当社株主はこの売り圧力にもさらされなければならないのかと頭を抱える始末だった。
「事業再生請負人」が驚愕の行動 「星組」が会社に寄生する
事業再生を成功させてきたプロ経営者として知られる当社元代表は、メガネスーパーを運営する当社の取締役に2013年に迎え入れられた。
そんな彼が代表の座を追われることになったきっかけは、2022年12月19日に当社の会計監査人であるPwCあらた有限責任監査法人の監査ホットラインに対して寄せられた匿名の通報であった。
その通報はいささか抽象的な指摘だったようだが、前代表が経費を不正使用し、また、前代表の関係者に不当な利益供与を行っているのではないかという告発であった。
PwCあらたは通報を受け、本件が前代表の不正に関する通報であることから社外取締役がリードして利害関係のない弁護士等に調査を依頼し、事実関係を調査するよう依頼した。
社外取締役らはこの依頼に対して事前調査を開始。匿名通報は根拠のないものとは思われず、2023年1月10日の監査等委員会では外部専門家を入れて調査を開始する旨を前代表らに伝達。前代表および彼と関係するとみられる役職員等を中心に会社が貸与するPC・スマートフォンの任意提出を求めて保全を実施。事態が明るみに出るにしたがってその後、2023年3月7日に調査主体は第三者委員会に移行した。
まず、事前調査および監査等委員会、第三者委員会の調査によると、社内外の人員を含む前代表らによる「星組経営会議」と称する謎のLINEグループの存在が浮上した。
当社から大きな金額が支払われている複数の業務委託先には、その「星組経営会議」メンバーらしき人物が運営に参加しており、そこから当社に対して、その業務実態と比べて過大な請求を行っているようすが伺えたという。「星組経営会議」メンバーらのLINEグループ内では、それら外注先の運営および資金フロー等について調整も行われていたとみられている。
本件調査報告書においてさらにショッキングな事案は、当社元従業員が代表取締役に就任しているH3社の存在だ。
H3社はVHリテールサービス社の永福町店、千歳船橋店の事業を譲り受け、眼鏡の仕入販売を行っているが、この2店舗は通常の当社と異なる意思決定フローにより店舗閉鎖が決定されていたという。
前代表はH3社の設立をサポートするために、当社グループの役職員20~30名を集めたLINEグループを作成。彼らはVHリテールサービス社保有の在庫の引き渡し、眼鏡・コンタクトメーカー等とH3社が取引を開始するための交渉、機器の引き渡し、店舗契約、店舗の改装、社用車の貸出・駐車場の手配、人材募集、ロゴや看板のデザイン、店舗への応援要員の派遣などあらゆる社外雑務を、日常業務に優先して手伝わされていたという。
そうして前代表は当社にとって競業となる眼鏡屋H3社を設立するという重大な利益相反行為を主導した。そんな当社に損害を与える行為を彼が主導した理由の1つとして第三者委員会は、2022年3月の「星組経営会議メンバー」の議事録において、前代表がC1社より当社グループの利益が回復できない場合に経営陣を退任させる旨のコメントを受けたとの記載があったことから、自身の退任に備えた動きだったのではないかと推測している。
こうした、上場企業の社長の行動として信じられない行為のオンパレードが明るみに出る一方で、「星組経営会議」に深く関係する者は体調不良を言い訳に沈黙を貫き、第三者委員会の調査には一切協力しなくなっていった。
彼らは第三者委員会への証拠提出の条件として自らへの免責を代理人弁護士を通じて要求するなど、第三者委員会は内部調査の限界を感じていたが、可能な限りの情報を入手して調査報告書を当社に提出し、当社もこれを受けて前代表らに約3億5600万円の損害賠償を請求。さらなる事実が明るみに出れば追加提訴もあるとしている。
「再生請負人」としてメディアに出ていた前代表はこうした当社の動きをC1社による「陰謀」と非難しているが、今後、当人自身の再生は可能なのかも注目だ。
なお、本件を受けて当社は内部管理体制の再構築について「単独での事業運営、取り組みだけではなく、株式上場の意義の見直しも含めた外部パートナーとの提携も有用である」として、日本企業成長投資傘下のHorusからのTOBに賛同。一旦、当社株式は非公開化されることとなった。
社名ロンダのゾンビ型ハコ企業、東証がようやく排除に成功
日本橋倉庫、NDB、ジェイ・ブリッジ、アジア・アライアンス・ホールディングス。
「社名ロンダリング」とも言われる当社の社名遍歴は、当社の乱脈経営の歴史を物語っている。
倉庫業の会社であったはずの当社が上場したのは1963年7月。
「ジェイ・ブリッジ」時代には外資経験者らが当社をライブドアよろしく、M&Aを重ねて株価を吊り上げる企業再生ファンドとすべく経営に参画するも、ショックと同時に目論見は崩壊した。
価値を毀損した企業買収先の株式を整理し、また、訴訟を起こされていた医療法人ファンド事業からも足を洗い、香港ノンバンク大手のサンフンカイの支援も受けて再出発したはずの新社名「アジア・アライアンス・ホールディングス」も、不可解な資金調達とマネーの社外流出が相次ぐなど、引き続きジェイ・ブリッジ同様「FACTA銘柄」であり続けた。
一部では政治資金絡みで用途のあるハコ企業とも報道されることもあった当社だったが、サンフンカイ系に発行した株式や新株予約権も雲散霧消。
上場企業として最後の社名となったアジア開発キャピタルでも乱脈ぶりは止まらず、循環取引を含む不適切な会計処理も発覚し、東京証券取引所は内部管理体制の不備等を指摘し、2021年8月7日付で当社株式を特設注意市場銘柄に指定した。
その後の内部管理体制等の審査では一部に改善が図られた点も認められたものの、日本取引所自主規制法人による往査では、当社代表印が安易に押された融資金額100億円の「融資証明書」が発見されるなど、「ああ、やっぱりここに内部管理なんて概念は存在しないだね」事案が多数確認されて、その長年にわたるハコ・ヒストリーもようやく終焉。特設注意市場銘柄への指定から1.5年の内部管理体制等「改善なし」ルールで退場となった。
個人投資家にとっては「値上がり率ランキングに度々出てきてうっとうしかった」当銘柄も、上場廃止発表直前に事情を察知していたと考えられる大株主の大量売りにより、最後は1円でも売れずにゴミ箱行きとなった。
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